2000 8.29


WTO農業交渉に対する日本政府への意見書

ふーどアクション21

 ふーどアクション21は1999年のシアトル閣僚会議に向けて意見書を作成し、日本政府に対して、またWTO事務局主催のNGO会議においても意見を述べました。シアトル閣僚会議は失敗し、農業部会での議論は今年の年末以降に持ち越されていますが、日本政府においても以下の意見をお汲みとりの上今後の交渉に当たられることを希求いたします。

(はじめに)
 シアトル閣僚会議での失敗の原因の1つには、ガット以来、日本を含む先進諸国が主導権を握り会議を進行しようとしたことに対し、発展途上国からの反発が生まれたこと、NGOのオブザーバー参加も認められないなどの、情報の開示が不十分であることが挙げられます。日本政府はこれまでの会議の進行に対し、会議の効率性ばかりでなく市民社会の参加を可能にする具体的な改革案を示すべきです。発展途上国やNGOの参加を保障する必要があるのです。
 シアトル会議以降も農業部門では、ケアンズグループとEU諸国との対立、そして日本の提唱する多面的機能フレンズグループの勢力拡張、といった交渉の構図が続いていますが、今やガット以来の、自由貿易の拡大こそが善である、との理念が問い直されていることを認識すべきです。自由化の進展により各国の伝統的な農業が衰退させられた実状、日本のこれまでの活動を含め工業化・情報化のグローバリズムが第三世界にとっていかなるデメリットを与えたのかを検証し、社会的に公正で持続可能な貿易システムのもとでの農業の重要性を世界各国に向けて訴える哲学を持ち、日本の主張の賛同国を募ることが必要です。すなわち、日本自らが先進国の飽食を批判し、各国は国民の生存に必要な食料の相当量を検討しそれを確保する必要があること、南北間の食料分配のアンバランスを是正することを強調し、地球、地域の環境を守ること、食料主権、食料安全保障の権利をお互いに認め合う必要性があります。
 そのためには、2000年3月に世界の97カ国454のNGO団体(6月末現在)が合意した「ボストン声明」の次のような提案を日本政府も考慮すべきです。すなわち「文化の多様性、生物多様性、経済の多様性、および社会の多様性を保護し、地域経済と地域内貿易を優先させる政策を導入し、国際的に認知されている経済的権利、文化的権利、社会的権利、および労働権を確保し、人々の主権と、国家および地域レベルにおける民主的意思決定プロセスを取り戻す必要がある。そのためには、資源の民主的管理、生態系の持続性、公正、および協力という諸原則、そして予防原則に基づく新しいルールが必要なのである。」

1.「貿易交渉における農産物の扱いについて」は工業製品と同じルール上で扱うことはもっての他です。日本政府が主張するように、「農業は人が生きるために不可欠な食料を生産する産業であり、また、食料供給を行う以外に自然環境や国土の保全といった役割も果たし」、人類の生存にとり背中合わせの活動でもあります。WTO交渉においては、農業部門は自由化の論理を強調すべきではありません。自由化の波にのせることは各国の農業発展を後退させ、その人々の生存の危機を招くことになるからです。
 それと同時に工業製品の自由化の論理も見直す必要があります。比較生産性優位の考え方からは経済力のある先進国や多国籍企業がその利益を得る傾向がありました。資源の収奪や廃棄物の拡大、といった地球環境破壊の弊害もみられます。また投資やサービス部門の自由化は南北間の格差を拡大するおそれがあります。

2.「農業の多面的機能を配慮」することには賛成です。ウルグアイラウンドの農業合意においても「非貿易関心事項(non-trade concerns)」が言及されており、日本提案におけるように「国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承、保健休養、地域社会の維持活性化、食料安全保障」を多面的機能の内容として盛り込むことは当然です。そしてこの考え方の背景にはすべてのものを商品化し貿易の対象とすることは人類の生存の危機をもたらすことを自覚し、これを貿易制度一般のルールとすべきではないという理念があることを強調する必要があります。また日本政府としては、農業の多面的機能維持を主張する以上、国内支持の口実として述べるのではなく農業政策として実質化しているという裏付けが必要です。緑の政策として位置づけている基盤整備事業などの項目は農業の発展にとって本当に役立っているのかを検証してみる必要があります。自然環境の保全を主張する以上、日本においても有機農業への転換を進める必要もあります。

3.「食料の安全保障」について日本政府の主張に同意します。すなわち「どんな場合でも国内に食料を安定的に供給することが国の義務であること、人口の急増等により世界の食料需給が大幅に増加することや砂漠化の進行などにより食料増産にも限界があることを考えれば、各国が輸入に過度に依存することは問題であり、食料供給は国内生産を増大させることを基本にすべき」です。フードセキュリティを国際的合意とすることはFAOも認めるところです。これについては、日本のような経済大国が経済力にものを言わせて発展途上国の農産物を買いあさることはその国の食料自給をさまたげること、アメリカやケアンズグループなどの多国籍の食料産業の戦略に国民の食生活をまき込むべきではないことなどに留意する必要があります。輸出国であろうと輸入国であろうと自国民を飢えさせない食料安全保障の権利を認め合う必要があるのです。その上でセーフティネットを作ることが国際貿易ルールとして必要なものなのです。

4.「多面的機能を有する農業に対する措置について」
 農業に対する支援をすることは、農業の有する多面的機能が市場競争にそぐわない側面があることから、国民の税金でまかなうことに賛成です。事実上、農産物輸出国も多様な形で農家支援をおこなっていることからみても、輸出と輸入のバランスをとる必要もあります。しかし農業支援の措置については透明性を確保することが大前提です。公共事業にかかわる汚職はもっての他ですし、個々の農家支援に役立つ予算措置を考える必要があります。そのためには、「政策評価」の手法も見直し、地域からの要求を吸い上げ、消費者の意向も加えそれを予算化する手法を考えるべきでしょう。

5.「輸出国と輸入国の権利義務バランスの回復について」は、食料輸入国が輸入の段階的拡大を義務づけられているのに対し、輸出国の食料供給の義務が明確ではありません。このようなアンバランスの是正が必要です。このことは、食料の安全保障の上からも当然のことですが、この問題を政治的な妥協の対象としてはなりません。

6.「途上国への特別な配慮について」については、WTOの加盟国の大半が途上国である以上、先進国側の視点からによるものではなく、各国のNGOなどの意見をもとにした配慮が必要です。その際に、農産物の輸出促進のために、途上国が有する資源を収奪しない措置が国際的に必要です。特に、多国籍企業による開発輸出に対する規制が必要です。また、教育や女性の権利の拡大等への国際支援を重視し、開発途上国の経済的自立を促進することが必要です。

7.「食品の安全性など新たな課題への対応について」は、食品の安全性に関しては独立した課題とし、消費者の基本的権利(知る権利、選択の権利の保障)を盛り込むことが必要です。特に、GMO(遺伝子組み換え体)などバイオテクノロジー食品については、予防原則に則った国際的協定づくりを進めることが必要です。表示の義務づけを国際ルールとするよう主張すべきです。また、食品の安全に関する衛生検疫措置については、各国の自主性を尊重し、国民の健康が守られる水準を確保することが必要です。

8.「国内農業助成に対する規律のあり方」については、それぞれの国の助成政策について、国民に対する透明性を確保した上で、国内農業の縮小につながることのないよう、配慮すべきです。国内助成合計量(AMS)の削減(「黄」の政策)については、各国の食料・農業をめぐる事情を配慮し、一律的な削減を行わないよう主張すべきです。特に、輸出を行っていない農産物については、削減対象からの除外を求めるべきです。また、削減対象としていない「緑」「青」の政策については、引き続き、削減対象外とするとともに、その政策の範囲は各国の事情によって弾力的な運用を図るよう主張すべきです。さらに、中山間地域等の条件不利地域対策、環境保全型農業への支援、コメなど国内生産を基本とした基礎的な農産物の経営安定のための制度等は、「緑」「青」の政策として維持するよう主張すべきです。

9.「関税やアクセス約束など国境措置のあり方」では、関税水準については、国内農業の維持や国民生活に必要な基礎的食料の確保が可能となる水準とするよう主張すべきです。とくに多面的機能と食料安全保障のうえから、国内生産の維持が重要な作物については、関税引き下げは行わないよう主張すべきです。また、関税水準の上限設定の導入に反対すること、品目別の関税水準については、一律に一定率の削減をおこなうことなく、各国の自主性を確保するよう主張することが必要です。

10.「輸入急増による国内産業への悪影響を防ぐためのセーフガード措置のあり方」では、輸入量の急増、輸入価格の下落に対し、関税を課す特別セーフガードを堅持すべきです。また、国内農業の維持が図られるよう、セーフガード措置を積極的に発動すべきです。

11.「輸出競争など輸出国に対する規律のあり方」については、輸出補助金は、最も貿易歪曲的なものであり、その廃止を主張すべきです。また、現在認められているロールオーバー(輸出補助金未使用分の後年度使用)についても廃止を主張すべきです。さらに、輸出国の一方的な輸出規制については、制裁措置を明確にするなど、規律を設けるよう主張すべきです。一方、人道的な立場からの食料援助については、制限を設けないよう主張することや、国際的な食料の安全保障のため、食料備蓄機構の創設を主張すべきです。

12.「途上国のニーズ・問題に対する配慮のあり方」については、 7と同じように主張すべきです。

以上

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